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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)5017号 判決 1954年2月25日

主文

原判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

被告人の上告趣意について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権を以て調査すると、本件行為時である昭和二五年八月一日当時施行の道路交通取締令(昭和二八年政令二六一号による改正前のもの以下同じ。)三五条二項には、「諸車の使用主又は運転者は、乗車及び積載のために設備された場所以外に乗車をさせ又は積載をしてはならない。」と規定している。その意義は、乗車のために設備された場所以外に乗車をさせることを禁止し、又は積載のために設備された場所以外に積載することを禁止する趣旨と解すべきものではなく、乗車及び積載のために設備された場所以外に乗車をさせることを禁止し、又は乗車及び積載のために設備された場所以外に積載をすることを禁止する趣旨と解すべきものである。すなわち乗車についていえば、乗車のために設備された場所に乗車をさせることは禁止されていないのは勿論、積載のために設備された場所に乗車をさせることも禁止されてはいないものというべきである。かかる解釈は、同条項の文理解釈から出てくるばかりでなく、同条四項の規定からもその合理性が認められ得るのである。すなわち、同条四項は、「緊急やむを得ない需用がある場合においては、第二項の規定にかかわらず、出発地警察署長の許可を受け、乗車及び積載のために設備された場所以外に積載することができる」と規定しているから、乗車のために設備された場所(及び積載のために設備された場所)に積載することは、警察署長の許可を受ける必要のない事柄であり、従って同条二項において禁止されていないことを窺い知ることができるのである。それ故、これと同様に、積載のために設備された場所(及び乗車のために設備された場所)に乗車させることは、同条二項において禁止されていないものというべきである。されば、同条二項の人を乗車させ又は物品を積載してはならない場所は、乗車及び積載のために設備された場所以外の部分であって、乗車のために設備された場所に物品を積載し又は積載のために設備された場所に人を乗車させることは、事情によって他の法条(例えば、同条一項、同令五四条一六号)に触れることのあるのは格別同条項に違反するものではないと解するのが相当である。そして原判決の認容した第一審判決の認定した事実は、「被告人は、昭和二五年八月一日午後四時頃安達郡油井村安達駅前道路で乗車設備のない自転車の後部荷台に岡崎トミ(当十九年)を乗車せしめ運転通行したものである。」というのであり、第一審判決は、これに対し道路交通取締令三五条二項、五七条を適用し、原判決は、第一審判決は何等法令の解釈、適用を誤った違法はないとしたものである。されば、第一審判決は、結局被告人が岡崎トミを自己の運転する自転車の積載のために設備された場所に乗車させたという事実を認定し、原一、二審判決は、かかる場所に乗車をさせることは同令三五条二項に違反するものと解釈したものであること明白である。従って、前示説明に照し、原判決は、判決に影響を及ぼすべき法令違反があって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

よって、刑訴四一一条一号に従い、原判決を破棄し、同四一三条但書により本件につき更に判決をするに、第一審判決の確定した事実は、前示道路交通取締令三五条二項に違反しないし、また、その他の法条にも該当しないから、刑訴四一四条、四〇四条、三三六条前段により被告人に対し無罪の言渡をすべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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